【NICU看護師】早期の母乳栄養で赤ちゃんもお母さんも元気に!


記事を読むメリット
- 母乳の基礎知識を学ぶ事ができます。
- 早期に母乳栄養を取り入れるメリットを知る事ができます。
- 超低出生体重児への母乳のあげ方を知る事が出来ます。
前回の記事のおさらい!
前回「NICUに赤ちゃんが入院した時の家族の心理」について解説しました。そこで、母親の感じる事として「母乳をあげられない悲しさ」をあげていましたが、悲しみを解決する方法についてはまだお話していませんでした。
その理由は、NICU看護師として母乳に関する知識も交え理解してほしかったからです。
そのため、今回は「母乳」の基礎知識と、早期母乳栄養が赤ちゃんと母親にどのような影響をもたらすのか一緒に学んでいきたいと考えています。

母乳について知ろう!
母乳ってどうやって作られる?
では、早速問題です!

残念!正解は、プロラクチンでした!
このプロラクチンは乳汁分泌ホルモンと言われ、分娩後の乳頭刺激をきっかけに体内で増加し、母乳が分泌するようになります。そのため、出産数時間後より赤ちゃんにおっぱいを吸ってもらい母乳分泌を促します。
母乳に含まれる成分
母乳の中でも一番初めに出る黄金色の初乳は、IgAという免疫成分がたっぷり含まれています。出生直後は抵抗力が弱い赤ちゃんも、初乳を飲む事で免疫力がUPし菌に勝てるような身体になります。
この初乳はだいたい2日程度続き、その後通常の白い成乳に変化していきます。
成乳に変化した後も栄養価は非常に高く、アミノ酸・ビタミン・オリゴ糖など1000種類以上の栄養成分が、赤ちゃんの身体をサポートしていきます。消化吸収にも優れ、内臓が未熟な赤ちゃんにぴったりな食事と言えます。
母乳分泌量は出産後~2週間で決まる
母乳分泌量は出産後~2週間で決まると言われています。そのため母乳で赤ちゃんを育てたい場合、出産後2週間は赤ちゃんの吸啜&搾乳でおっぱいをしっかりケアする必要があります。
もしこの間にケアを怠ってしまうと、身体が「もう母乳は必要ない」と判断し早くて1週間程度で母乳は出なくなってしまうんです。

直接母乳は+αのメリットが沢山!
赤ちゃんを抱っこし、直接おっぱいを吸ってもらう事をNICU看護師用語で『直接母乳(略して直母)』と言います。
母乳単体でも栄養面・免疫面でよい効果をもたらしていましたが、直母は更に+αのメリットがあるんです。
お母さんの体には、身体を守る常在菌がついています。抱っこをする事でこの常在菌が赤ちゃんに移行し、外からも感染を防げるようになります。
また愛着形成を促す効果もあり、赤ちゃんとお母さんの関係性を築く大切な時間にもなります。
NICUで早期に母乳栄養をするメリット
赤ちゃんの合併症を予防
赤ちゃんはお腹の中にいる頃から、母体から沢山の栄養と免疫をもらっています。正期産児(37週以上)の場合、必要な栄養・免疫成分を身体に蓄えた上で出産に至りますが、NICUに入院する赤ちゃんの多くは37週未満の早産児です。
早産児は栄養・免疫が不十分な状態で生まれてくるため、出生後早期に介入をしてあげる事が重要です。

どれも赤ちゃんの予後を左右する重大な合併症です。これを見るだけでも、早期母乳栄養の重要性がよく分かりますね。
母親の心のケア&愛着形成になる
通常の経過であれば、出生数時間後には直母が可能です。しかしNICUに入院すると、赤ちゃんは保育器管理になってしまうので、直母が実現するまで長い時間が必要です。
あげられるまでの期間としては、状態が良い子で1週間前後、長期入院だと1カ月先の事も。その間、母親は母乳が止まらないように毎日・数時間おきに体力・精神力を削りながらも一生懸命搾乳をします。
その母親の努力が報われる瞬間が、赤ちゃんが母乳を摂取する時。母乳を摂取している姿を見ると、母親の中で様々な思いが駆け巡ります。
- 自分の母乳を一生懸命飲んでくれてる。
- 努力がちゃんと実になった。
- ミルクを飲んでいる姿が愛おしい。
たった数mlでも「母乳を飲んでくれた事実」は、今まで辛い気持ちをしてきた母親にとってかけがえのない瞬間。愛着形成が促進され「これからもっと頑張ろう」と育児に対するモチベーションUPに繋がります。

母乳をあげる方法
実際に母乳栄養はどうやって取り入れるのか。赤ちゃんの状態に合った方法をご紹介いたします。
①保育器&ミルク開始未【綿棒塗布】
体重1000g未満の超低出生体重児の場合、入院後状態が安定するまでは輸液管理、状態安定後は数ml単位で経管栄養を開始します。栄養が始まるまでの間、胃に直接母乳を届ける事はできません。
そこで行うのが、綿棒を使用した口腔内母乳塗布です。

綿棒の先を赤ちゃんの口に持っていくと、赤ちゃんによって吸啜をしたり「これはなんだろう?」と表情を変えたりします。この姿を見る事で、赤ちゃんに直接触れる事ができなくても愛着形成を促す事ができるんです。
また極めて微量の母乳摂取となるため、ミネラルなどの栄養成分を取り入れるのは困難ですが、免疫物質や常在菌は赤ちゃんに移行します。そのため、早期に開始する事ができれば超低出生体重児の感染予防につながります。


赤ちゃんの状態を見ながら取り入れていく事が大切です。
②保育器&ミルク開始済【経管・ビン】
栄養摂取が始まっている場合は、医師指示のもと積極的に母乳を取り入れていきます。
赤ちゃんの呼吸状態が安定していれば母親にどんどんやってもらいましょう。
③保育器外で抱っこ可能【直母】
赤ちゃん用ベッド(コット)にいる場合は、授乳室で直母を行います。初めのうちは、赤ちゃんも慣れていないので上手く吸啜してくれなかったり、泣きだす子もいますが、練習をしていくうちに上手に吸えるようになります。
もし口が小さかったり、吸うのが下手な場合は補助具を使ってあげるといいですよ。

母親自身も初めての経験なので、上手くいかずに困惑したり落ち込む方もいます。その時は「最初はみんな上手くいかない事」「赤ちゃんと一緒にゆっくり練習していく事」を伝えてあげましょう。

さいごに
早期母乳栄養が「赤ちゃんの身体」「母親の心」を元気にしてくれる事が、今回の記事で理解していただけたでしょうか。
母乳栄養を実現するには、赤ちゃんの状態安定と母親の協力が必要不可欠です。NICU看護師は、2人の努力・頑張りをしっかりと理解し認めた上で、面会時に素敵な時間を過ごせるように関わっていきましょう。


